「紅炎!」


左方向から聞こえた声。そちらに視線を向けると長い髪を揺らしながら此方に歩いてくる男が。


「…遅かったなシンドバッド」
「ああ、すまない」


それもこれもジャーファルがうんたらかんたらと、いつものごとく自身に課せられた仕事の多さに愚痴を零す。だがそんなシンドバッドに対し、紅炎は軽く溜め息混じりに言葉を落とした。


「それもこれもおまえが仕事をしないのが悪いんだろう」


全く以てジャーファルという人物は優秀な秘書殿ではないか。


「はは、紅炎までそれを言うのか」


参ったとばかりに頭を掻くシンドバッドとそんな会話をしながら店へ入る。よくシンドバッドと紅炎が共に訪れるこの店は完全予約制であり、全て個室仕様になっているため人の目を気にする必要がない。だが特別敷居が高い訳でも無いため、より落ち着いて会話を楽しみながら食事が出来るのだ。
席へ案内され、とりあえずいつも頼んでいるコース料理と飲み物をセレクトした。先に運ばれた飲み物を手に持ち、軽くお互いに掲げる。



「そういえば白龍と紅玉はどうしてる」
「うん?…ああ、二人とも元気に一生懸命頑張ってくれてるよ」
「そうか。世話になるな」


グラスを手遊びながらそう言う紅炎に、シンドバッドは微かに笑みを零した。紅炎もシンドバッドも共に大会社の社長という重い役を預かる身だ。だからこそ時には酷な判断を下し、非情なまでの対応を取ることもある。旧知の仲であり更にフィールドは違えど同じ役を携える二人は、だからこそそんなお互いの厳しい価値観を知っていた。シンドバッドから見て紅炎という人物は自分と変わらぬ程の厳しさを分け隔て無く振る男だ。…だがそんな男でもやはり私的な生活の範囲では身内に甘いのだな。そんな風に考えつつグラスの中味を煽った。




「…ところで、おまえの所に新しいのが入っただろう」


和やかに食事を進めていると、突然紅炎がそんなことを言い出した。


「新しい…というと、四人程入ったが?」


紅炎の発言に首を傾げながら、それがどうかしたのかとシンドバッドが問う。


「その中に金の毛色をした子どもがいるだろう」
「ああ、アリババくんか」


特徴を耳にした瞬間、シンドバッドはなる程と頷いた。つい先日シンドバッドの会社に紅炎が赴いた際、そういえば初仕事としてアリババを向かわせたんだったか。…まあ初仕事とは言っても案内人であるシャルルカンの付き添いという形でだが。


「アリババというのか」


記憶を辿っているのかどこかぼんやりとした紅炎の様子に、シンドバッドの口角が小さく痙攣した。


「…先に言っておくがアリババくんはやらないからな?」


ジャーファルも怖いし…と、青い顔をするシンドバッドには社長の威厳も何も無い。


「安心しろ。端から取るつもりはない」


紅炎に軽く白けた目で見られ、シンドバッドは誤魔化すように飲み物に口をつける。そしてシンドバッドが水分を含んだ瞬間を見計らったかのように紅炎が口を開いた。


「まあ向こうから寄ってくる場合は別だがな」
「ッ、ぐっ、」


見事気管に流れてきた液体のせいで咽せるシンドバッド。そんな彼をチラリと一瞥してから紅炎は笑みを浮かべ、優雅にグラスを揺らした。





***


すごく趣味です(笑)
後日紅炎さんがアリババくんに会って、

「常々思っていたがおまえの所の社長は馬鹿だろう」
「え?、えっ!?」

ってなる炎アリが見たいです誰か書いてください。ください。

まともなアリババくん受けじゃない、ぷらすのお話に需要なんて見当たりませんが本人楽しかったので満足です。この二人のぷらすは書いてみたかったので!

あ、そして白龍くんと紅玉ちゃんはシンドバッドさんの会社で勉強中という設定です。練家のしきたりというか、とりあえず自会社以外の会社でお勉強するのが慣わしみたいなそんなアレです。

お付き合いありがとうございました!